世界の裏庭

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小説、童話、迷言・珍言

創作ミステリー小説がメイン。おとなでも読める童話や、たまに、人生の役には立たない迷言・珍言

『事件家族』第3章(完結まで一挙公開)

【第三章】大嶽修二事件 1 波間に浮かんでいるときだけ、シオンは自分が本当の自分に戻れたような気がする。 遠くに高い煙突が見えた。赤と白のしま模様のかわいい煙突で、煙が空へ吸い込まれてゆくのを眺めていると気持ちが和む。好きな風景だった。 シオ…

『事件家族』第2章-14

その日の深夜、車に乗って一度だけ移動した。それが発見された蒲生干潟にある、日和山近くの廃屋である。シオンに無理やり睡眠薬か何かを飲ませるとすぐに、石黒は出ていった。目隠しを通して光が射しこまなかったから、まだ夜が明ける前だった。波の音が聞…

『事件家族』第2章-13

☆ 事件の幕切れは、後味の悪いものになった。 エスカレーターから飛び降りた犯人の石黒洋太郎は、頭部に大けがを負って救命救急センター併設の病院へ搬送されていた。頭蓋骨の陥没骨折と脳挫傷で重体だった。意識が戻らず話すこともできないため、事情聴取は…

『事件家族』2-12

変わった構造のエスカレーターだった。広場を中心にXの形をしていて、ちょうど交差しているところに中二階があり、そこからもう一本乗り継がなければ二階へあがれないのである。 男がエスカレーターに乗った。挙動にはどこか落ち着きがなく、しきりに周囲を…

『事件家族』第2章-11

☆ 犯人の足どりは掴めなかった。 草壁の携帯には何度かけてみてもつながらない。生きているかどうかが気がかりだったが、犯人を追うのが先決だと大嶽は自分に言い聞かせた。 車は海岸にほど近い道を走っていた。逃走しているはずの犯人は、どこかから上陸す…

『事件家族』第2章-10

大きな道路からだんだん細い道路に入っていって、でこぼこ道になったとたんに海が見えた。途中からパトカーの数がどんどんふえて、せまい駐車場はいっぱいになった。 「陽平君、少しだけ待っててくれ。すぐには見つからないようだったら、この車で家まで送る…

『事件家族』第2章-9

☆ チャンプは途中で何回も立ち止まっては、困ったような顔をして陽平を見あげた。 (おれの鼻じゃ無理だよ) 目がそう言っている。 「頑張れよ、チャンプ! シオンねえちゃんを助けられるのは、僕たちしかいないんだぞ」 何度も同じ言葉をかけて、陽平はシオ…

『事件家族』第2章-8

港が近づくと道はアスファルトに変わった。漁港が近づくと人も多くなり、漁船の数も増えてきた。誰かが水上バイクを目撃しているかもしれないと思った。 犯人が上流から下ってきたとすれば、ここを通らなければ海に出ることはできないからだ。釣り糸を垂らし…

『事件家族』第2章-7

☆ やられた、と大嶽は思った。 完全に裏をかかれた。無線マイクに向かって叫んだ。 「犯人は東部道路の新名取大橋上から、名取川に向かって現金の入ったバッグを落下させ、水上バイクでバッグ回収後、河口方面へ逃走。水上バイクは青と白のツートンカラー、…

『事件家族』第2章-6

☆ 仙台宮城インターから上り車線に入ったところで、草壁の携帯が鳴った。車にはハンズフリー通話の装置がつけてあり、運転しながら話ができる。 「……いまどの辺だ?」 「宮城インターから入ったばかりです」 「仙台南インターのジャンクションから、仙台南部…

『事件家族』第2章–5

☆ 草壁家の一室でコーヒーを飲みながら、大嶽は何十回も考えた内容を反芻していた。一階にある居間の隣にある和室で、ふすまも障子もすべて閉め切ってある。風は強いがよく晴れた日で、窓に面した障子が白く発光しているように見えた。 携帯の基地局は街の中…

『事件家族』第2章-4

☆ 翌早朝、六時——。 陽平は興奮していたためか、五時ごろから目がさめていた。外がまだ薄暗かったのでベッドから出ないでいたのだけど、がまんできずに起きたときでも六時前だった。 ゆうべは下の部屋でお父さんやお母さん、警察の人たちが夜遅くまでいろん…

『事件家族』第2章−2

店の周囲には警戒のために警官が立ち、鑑識の人間たちが忙しそうに動き回っていた。裏口から家に入った。 鹿野シオンの身辺情報は捜査員から聞いていた。名字が森と鹿野と違うのは、シオンが孫ではなくて姪の娘に当たるからだ。いつも店にいるおばあさんは小…

『事件家族』第2章–1

【第二章】 鹿野シオン事件 ☆ 草壁から電話が入ったとき、大嶽は署の会議室にいた。 携帯のディスプレイを見ながら考えた。きっと陽平の話だろう。たしかに気になってはいるものの、あくまでもそれは個人的な問題だ。一方、森たばこ店の事件は公務だ。 迷っ…

『事件家族』第1章-6

☆ 聡子は二人が戻るとコーヒーをいれるかと尋ねた。大嶽はお願いしますと答えた。 電話が鳴った。 草壁は電話を見つめ、それからすがるようにこちらを見た。ジャスト十二時だ。しんとした室内に、やけに大きな呼び出し音が断続的に響く。 大嶽は後悔していた…

『事件家族』第1章-5

☆ 「おれ、浮気してるんだよ、じつは」 草壁が言った。聡子がいないかと、大嶽は慌てて辺りを見回した。 「バーの女だけどな。うちに電話をかけてよこしたってのは、そいつかもしれないと思ってさ」 「突然なんの話だ?」 夜になっても息子が帰ってこず、脅…

『事件家族』 第1章-4

☆ 大嶽修二の携帯電話が鳴ったのは、聞き込みの最中だった。 街中のとあるマンションの玄関で若い男に話を聞いていた。いつもなら仕事中はマナーモードに切り替えているが、忘れていたらしい。画面も見ずに大嶽はマナーモードのスイッチを押した。 「それに…

『事件家族』 第1章-3

☆ 気が重かった。 家路につくとき身体も気も重いのは、いまにはじまったわけではないが、それにしても今日は格別だと、草壁雅人は思った。小さな駅前の商店街を抜けて公園を通りぬける途中、人気のないベンチの前で草壁は立ち止まった。 晴天による放射冷却…

『事件家族』 第1章-2

☆ 陽平は黙りこんで椅子に座り、足をぶらぶらさせていた。ダイニングテーブルの上には大好物のフルーツゼリーが置いてあるのに、珍しく手をつけようとしなかった。 陽平は二日前に小学校を卒業し、四月からは中学生になるが、骨は太いけれど身長が高くはなく…

『事件家族』 第1章ー1 長編ミステリー

◉新シリーズ開始! (あらすじ) ある朝、草壁家にかかってきた一本の電話が、すべてのはじまりだった。英語で話してくるのだが、どうも様子がおかしい。意味はわからないが、何やら、きな臭い事件の気配がただよいはじめる−−。 【第一章】 草壁陽平事件 ☆ …

『その男、椎名』第7章(完結)

【最終章】 ●七人目 場所/警視庁本庁第七取調室 被インタビュー者/椎名 男はICレコーダーのスイッチを押していった。 「私は係官の九条。録音させてもらうが、いいな」 椎名は頷いて答えた。 「まさか、私のほうがインタビューされる羽目になるとは思い…

『その男、椎名』第6章-3

「多分、そんな感じではなかったと思う。椎名さんが知ってるかどうかわからないけど、彼女、どちらかといえば引っ込み思案だったから」 「昔会社で一緒だった同僚の女性も同じようなことをいってました。誰とでも気軽に喋れるタイプじゃないけど、でも男には…

『その男、椎名』第6章-2

椎名は腕時計で時刻を確認した。このバーの開店時刻は十八時、いまは十六時二十五分。まだ一時間半近くあった。料理屋であれば仕込みに時間がかかるのはわかるが、バーだから出すのはせいぜい酒のつまみ程度だろう。 ようは開店時刻が迫っているというより、…

『その男、椎名』第6章-1

●六人目 堂園寛樹/バー経営者 場所/『Bar オーバル』 薄暗いバーだった。オーナーの堂園はカウンターに両手をつき、苛立ちを抑えつけるような調子でいった。 「ですから、警察にもう何度も同じこと話してますけど、僕は犯行が行われたとされる前後は日…

『その男、椎名』第4・5章-3

「それってもしかして、僕が警察に一一〇番通報の電話をしてたときの声じゃないですか? 人間って気絶してても耳は聴こえてるもんなんですね」 瀬川はそこで慌てて片手を左右に振ってみせた。 「だからほら、夢か現実だったのか自分でもわからなかったから。…

『その男、椎名』第4・5章-2

「その場で気絶したわたしが、その前後の記憶が途切れていたわたしがこんなことをいっても説得力ないかもしれないけど、気を失う前に若い男性、つまり神さんと二言三言言葉を交わしたはずなんです。その後で気を失ったと思うんです。だって交わした言葉、憶…

『その男、椎名』第4・5章-1

●四・五人目 瀬川春子/水道検針員 神匠/大学生・新聞配達員 場所/公共施設待合ロビー † 今回、新聞記者を名乗ることにしたのは、インタビューの相手が新聞配達をしていることも理由のひとつだった。 神匠(じん・たくみ)は瞳を輝かせて、ためつすがめつ…

『その男、椎名』第3章-3

『その男、椎名』第3章–3 長編小説 椎名はノートを開いて事前に書いておいた質問を探し、まだ訊き洩らしている項目をいくつかチェックした。 「花穂さんが同じ会社にいた最初の頃二人とも恋人はいなかったとのことでしたが、その後はどうだったんでしょう」 …

『その男、椎名』第3章-2

『その男、椎名』第3章–2 長編小説 そこにランチがやってきた。美絵はうれしそうににこにこ笑うと「うわっ、豪華」と大きな声をあげた。 「こんな贅沢なランチ、すごい久しぶり。いただきまーす!」 「ゆっくり食べながらでいいですから」 美絵はまず千枚漬…

『その男、椎名』第3章-1

『その男、椎名』第3章–1 長編小説 ●三人目 金城美絵/被害者の元同僚 場所/京都府宇治市 お番菜『らくら』 † 「へえ、インタビュアーなんて、そんな職業があるんですね」 金城美絵は丸い目をさらに見開いてそういった。椎名が渡した名刺を興味津々という感…