●10 うんちくん、衝撃の告白をきく!
ある日のこと。ひるの食事も終わって、うとうとと昼寝をたのしんでいると、背中をつんつんとつつかれた。
ウンコちゃんが、なぜか少し恥ずかしそうに、もじもじしながらいった。
「ちょっと、話があるんだけど……」
「うん? あ、どうしたの。あらたまっちゃって」
うんこちゃんが、ユラユラと海面ちかくまであがっていったので、うんちくんも後をついていった。よく晴れた日で、海のなかまで太陽の光がさしこんで、キラキラとゆれて、すごくきれいだった。
急にふりむくと、ウンコちゃんはこう告げた。
「あたし、デキちゃったみたいなの……」
なんの話をされているのかすぐにはわからず、うんちくんは少し考えこんだ。そして思った。
(デキちゃったって、おできのこと? でも、おできができたくらいで、わざわざ俺をよび出すなんて変だし……)
ウンコちゃんは、ほおを赤くそめてうつむいている。
「えっ! デキちゃったって、もしかして、子どもがデキたってこと?」
うつむいたまま、こくりとうなずくウンコちゃん。
えーー! えーーーー! とバカみたいに同じ言葉をくりかえすうんちくんに、彼女は、じれったそうにひじでつついてくる。
「子ども……それで出産予定はいつ頃なの? ていうか、それって……」
誰の子ども? と聞きそうになってあわてて口を閉じた。そういう流れって、あとで絶対もめるパターンだよな、と思ったからだ。
結局、というか当然というべきか、彼女の妊娠はただの勘ちがいだった。
考えてみればあたり前のことで、そもそも疑惑ですらなかった。けれどそれは、ある意味衝撃的なできごとだった。
ウンコちゃんは便秘だったのだ!
「オホーツク海はエサが豊富だからっていったって、いくらなんでも食べすぎなんだよ」
「テヘヘ、ゴメンなさい」
ウンコちゃんは、自分の頭をコツンとぶってみせた。そのかわい子ぶった彼女のしぐさを、やや冷めた目で見ながら、うんちくんの頭にふとギモンがわいた。
(ウンコちゃんが、便秘……? これはいったいどういうことだろう? ウンコからも、ウンコが出てくるんだろうか? それとも最初の単語としてのウンコと、次の単語としてのウンコは、何か性質が異なっているのか?)
うんちくんの悪いくせが、またはじまった。哲学的といえば聞こえはいいが、ようはうんちがウンコについて疑問を抱いていることになる。
しかし彼の思考実験は、とどまることを知らないようだった。
(オレはうんち……ということは、オレの場合はうんちが出てるのかな? でもなんかそれって、おかしくないか? 人間からはうんちもウンコも出てくるし、人間から人間も産まれてくるから、それはそれでいい……のか?……な? まぁ、いっか!)
こんなふうに、難しいことは棚上げにしてしまうところもまた、うんちくんの美質ではあるのかもしれなかった。
わけのわからない緊張から解き放たれた彼らは、しばしオホーツク海の波間にプカプカと浮かんで、過ぎゆく時を楽しんだ。
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