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【おすすめ傑作選◉映画】『ビラボン・オデッセイ』

● 『ビラボン・オデッセイ』 

 監督/フィリップ・ボストン 出演/シェーン・ドリアン、レイン・ビーチリー他

 

ビラボン・オデッセイ [DVD]

ビラボン・オデッセイ [DVD]

  • 発売日: 2005/10/26
  • メディア: DVD
 

 

 もうすぐ夏がやってくる! ……ということで思い出したのが、『ビラボン・オデッセイ』というサーフィン映画である。

 サーフィン映画の名作といえば、なんといっても『ビッグ・ウェンズデー』の名があがるだろう。公開されたのはかなり昔のことだが、水曜日にやってくるという伝説の大波を待つ男たちの、友情や挫折を描いたいい映画だった。

 今回紹介するのはドキュメンタリー映画である。事実というか、現実のできごとを撮影している。はっきりいって命がけだ。サーフ・ブランドの「ビラボン」が、地球最大の波を探して挑戦する冒険(ビラボン)として企画したものだという。

 無謀ともいうべきこの企画のおかげで、製作に関わった人々の生死をかけた迫力ある映像を、われわれ見る側は安全な部屋のなかで楽しめるわけである。

 

 挑戦するその巨大な波は……高さ60フィート!

 挑戦するその場所は……太平洋のど真ん中!

 

 1フィートは約30センチだから、×60で18メートルにもなる。想像しようとしてもなかなかできないのではないだろうか。私自身がそうだった。波といえば、海からやってきて砂浜や岸壁にうちよせてくる、つまり陸地の側からイメージすることが多いはずだ。

 だが今回の舞台は太平洋である。波が立つのも太平洋のど真ん中なら、崩れるのも太平洋のど真ん中である。

 もし自分がその場にいたらと考えてみるだけで、これはそうとう怖い。

 それほどの大きな波に、文字通り命がけで挑戦する人々をつぶさに記録した映画、というよりは映像だ。例えとしてではなく、観ていて本当に「手に汗を握ってしまう」ほどすばらしい。

 

 じつはこの映画を観たきっかけは『ステップ・イン・トゥ・リキッド』という、これもサーフィンのドキュメンタリー映画だった。その映像がすばらしくて圧倒されたため、ついこの『ビラボン・オデッセイ』に手が伸びたという流れだった。

 そうしたら、本作はさらに凄かった! 「ビッグウェイブ・サーフィン」と呼ばれる世界があるということも初めて知った。

 

 終盤近く、これはもう「巨大」と表現するしかない波が、画面いっぱいに立ち上がってくる。観ているだけで船酔いしてきそうな、大きなうねりに乗ってサーファーが静かに滑り出す。緊張が最高潮に達する瞬間だ。

 すると、サーファーの背後で海が、巨大な塊となってゆっくり盛り上がっていき、やがてそれは壁となってそそり立っていく−−。

 息をのむほどの映像で、その光景は一度目にしたら忘れがたいものがある。撮影監督はジャック・マッコイという人で、サーフィン全般に造詣が深く、迫力ある映像を撮る人として知られているそうだ。

 

 鑑賞後はしばし呆然とした。出演者はもちろん、製作スタッフの勇気とチャレンジ精神に感服しながら、ぼーっとした頭で想像してみた。

 世界でもっとも広大な海である太平洋。そのはるか沖合で、人知れず立っては崩れてゆく巨大な波が存在する−−。そして、波のその下は数千メートルも底がない……怖い。

 夏に、ぜひおすすめしたい映画だ。