世界の裏庭

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『おとなげない童話・ん』8 うんちくん、国際交流を楽しむ!

 ●8 うんちくん、国際交流を楽しむ!

 

「ねえ、ウンコちゃん、水が冷たくなった気がしない?」
「わたしもそう思ってたとこ。もしかしたら、もうオホーツク海に入ってるのかもしれないな」
 泳いでいる海の水が、いちだんと冷たくなった。ときどき、氷のかたまりも流れてくるようになっていた。けれども、こんなに冷たいというのに、逆にエサのかずがふえているのがふしぎだった。
「エサも多くなったけどさ、サカナの数も多くなってきたんじゃないか? あんまりライバルがふえて、おなかいっぱい食べられなくなったらいやだな」
「うんちくん、そんなセコいこといってないで、せっせと食べましょ。わたしたち、もっともっと大きくならなくちゃいけないんだから」
 海の中には、水がうっすらと白く濁って見えるほどのプランクトンがいた。光合成で増えた植物プランクトンを、動物プランクトンが食べ、それをエサとするサカナやクジラたちがたらふく食べていた。海中は、大小さまざまな生き物たちの宴の場と化していた。

 

 そんな中、ひときわ体の大きな群れが、うんちくんたちがいるほうへ近づいてきた。
「ハロー! きみたち、いったいどこの国から来たんだい?」
 うんちくんたちにくらべると、2倍か3倍もあるくらい大きかった。大きな体をしたサカナが、群れで近づいてきたからビビった。しんぞうがドキドキしてきたので、ウンコちゃんのかげにかくれてこう答えた。
「ハ、ハロー……?」
「なんだ、英語しゃべれるじゃないか! アッハッハッ!」
(英語?……サカナなのに、英語?)
「英語は世界の公用語さ。だからぼくたちは、きっとわかり合えるよ。アッハッハッ!」
 やけに陽気なやつらだなと、うんちくんは思った。小さい頃から引っ込み思案だったうんちくんは、ドギマギするだけで、何も答えられずにいた。
 するとウンコちゃんは、その大きな相手に、いきなり抱きついたからびっくりした。
「oh! なんてきみは友好的な子なんだ」
 ウンコちゃんは物おじするようすもなく、相手にほっぺをくっつけられると、逆がわのほっぺをつけかえした。
「かわいい子だね、ワッチャネーム?」
 ウンコちゃんはニコニコ笑いながら、しきりに身ぶり手ぶりで何かを伝えようとしている。
「そうか、きみがウンコちゃんで、あっちのボクは、うんちくんっていうのか。ハロー! うんちくん!」
 うんちくんがれいぎ正しくおじぎをすると、彼らもそれをまねして、おじぎを返した。そしてそれから、なぜかアッハッハッと大笑いした。なんでこんなに陽気なの? もしかして、ただのおバカ? とても口に出せないそんなことを思った。
「ねえウンコちゃん、オレたちの仲間なのかな?」

 うんちくんが聞くと、ウンコちゃんは首をかしげた。
「うーん……ちがうんじゃないかな。こんな大きなのはいままで見たことないけど、たぶんサカナだと思う」
 ひそひそ話をしていると、大きな彼がこういった。
「それできみたち、いったいどこから来たんだい?」
 体も大きいけど、声もデカかった。それでもウンコちゃんは、また身ぶり手ぶりで答えた。
「ンフン?……アハーン!……なるほど、きみたちはジャパンから来たんだな? ずいぶん遠くから来たじゃないか、えらいよ」
 ウンコちゃんは、こんどは相手をさして何かをきいているようだった。
「ぼくらかい? ぼくらといっても、海で知り合ったフレンドだから、それぞれ出身地はちがうのさ。ぼくは、カナダのブリティッシュコロンビアから、エサの豊富なこの海へ回遊してきたんだ」
 となりにいたサカナがいった。
「ぼくはアラスカだ。アラスカは飛び州だから、いちおうアメリカ生まれってことにはなるんだけど、生まれも育ちもアラスカ、まあ生粋のアラスカっ子だな……何才かって? ぼくらはみんなおない年の仲間なんだけど、今年で4才になるんだ。そう、4年目ってことは、いよいよ生まれた川へ戻る年だ。ぼくらのふるさとにね」
 さっきのサカナがいった。
「ちょっとだけ、さびしい気もするね。せっかくこんなにエサの多い海でこんなに大きく育ったのに、もう帰らなくちゃいけないんだから。でもまあ、それがぼくたちの定め、運命だからしょうがないけど」
 サカナは肩をすくめてみせた。
(サカナなのに、肩……?)
 それから、ンフーン? とつぶやいた。


 彼らは太平洋鮭と呼ばれる仲間で、レッドサーモンやシルバーサーモンという種だった。ずっと先のほうでは、2メートルもありそうな巨大なサカナが、小さな魚を追い回して、つぎつぎに食べていた。キングサーモン、日本でマスノスケと呼ばれる鮭鱒属最大級の魚である。
 その後もウンコちゃんは、笑顔とボディランゲージでガイジンたちと交流を楽しんだ。はじめから終わりまで蚊帳の外だったうんちくんは、涙目になりながらそのようすをながめているだけだった。