● 5 うんちくん、いざ大海原へ!
川の水になじんでいた二人の体は、すっかり海水で生きられるように変わった。水もあたたかくなり始めたころ、うんちくんは全身がかゆくなってきた。かゆくてかゆくて、とてもじっとしていられない。
(体に虫でもわいたのかな? うんちだけに?)
自虐的にそんなことを考えてみたけど、どうもそれは体じゃなく心のほうのできごとらしかった。
この広い広い大海原を、もっと自由に思いきり泳いでみたい。もっと遠くまでいって、まだ見たことのない世界を見てみたい。そんなきもちがムラムラとわいてきたのだった。
それは衝動と呼ぶしかない何かだった。太古の昔より、種族として連綿と受け継がれてきた本能に彼は衝き動かされているのだったが、彼はまだそのことに気づいていない。
「旅に出よう! 長い長い旅に」
うんちくんは高らかにそう叫んだ。
「でも旅なんて、そうそういいことばかりじゃないよ」
ウンコちゃんはクールにいった。
「キケンだっていっぱい待ち受けてるはずだし、死んじゃうかもしれないよ? うんちくん、死んじゃってもいいの?」
慣れの中でパンパンにふくらみつつあった希望という名の風船は、急速にしぼんでいた。
「し、死ぬ? 海ってそんなにアブナいところなの?」
ウンコちゃんはまじめな顔で二回うなずいた。
「この広い海のなかには、数えられないぐらいたくさんの生き物がすんでるんだよ。目にみえないほど小さなプランクトンを、ちょっと大きなプランクトンが食べる。それを小さな魚が食べるの」
図解にするとこうなるそうだ。
◎小さな魚 ←中ぐらいの魚 ←大きな魚や鳥や動物 ←もっと大きな魚や動物 ←最強の動物
「残酷に思えるかもしれないけどさ、自然界ってそういうふうにできてるんだよ。それを食物連鎖とか生態系という……なぜあたし、こんなこと知ってるんだろう」
「おれたちって、そのなかのどの辺にいるのかな」
「うーん……たぶんいまは、最初のあたりだと思う」
ガーン、と思った。おれたち、いちばん弱いんじゃないか。最弱か。ウンコちゃんのさっきの話はおどしだと思っていたけど、もしかすると本当のことなのかも……。
三日ほど迷いに迷っていたうんちくんだったが、最後は旅に出ることにきめた。キケンなことはよくわかったが、やっぱり体のムズムズは消えないどころか、日に日に強くなっていてもう辛抱たまらん状態だった。
「よし、きめた! やっぱりおれは旅に出る」
「まったくもう、男子ってしょうがないんだから」
ウンコちゃんは、やれやれという感じで頭をふった。なんだか急に女子っぽくなってきた感じだ。そういえば心なしか胸のあたりが、ふくら……ダメだダメだ、旅は長いのにいまからそんなよこしまなことを考えてちゃ。