● 4 うんちくん、海で大変身
川の水の味がかわった。しかも、しょっぱい。こんな水は、うんちくんには初めての経験だった。
「うっ……急に息が苦しくなってきた」
「あたいも。苦しいのはそうなんだけど、でも息がとまって死んじゃう、って感じはしない。なんでだろう?」
「あ、ウンコちゃんあれ見て!」
川と海がまじりあうところで、水が上と下に分かれていた。上のほうの水は透きとおっているのに、下のほうの水はちょっと白くにごっている。
その2種類の水が、上下に重なっているように見えた。ウンコちゃんはそこへ行くと、上と下とを行き来していた。もどってきたウンコちゃんがいった。
「わかった! 上の水はあたいたちが生まれたところとおなじ水で、下の水がしょっぱくなってる。あの下のにごってみえる水は、きっと海の水なんだよ」
食べなれないエサを食べながら、二人はしばらく川と海の水がまじったその場所ですごした。少したったころ、ウンコちゃんがうんちくんをじっと見つめていた。
「うんちくん、なんかヘンだよ!」
ウンコちゃんはおどろいたようにいった。
「少し前まで、からだの横にあったもようが消えちゃってる。しかもからだの色まで変わってるし!」
「そういわれても自分じゃ見えないからなあ。でも、とくべつきもち悪いとか、そういうのはないんだけど……僕はいま、どんな色になってるの」
「白っていうか、銀色っていうか……うんちくん、なんだか金属になったみたい。ほら、太陽のひかりでピカピカかがやいてるし」
「僕の体が金属みたい?」
ところがその次の日になると、こんどはウンコちゃんの体も変わってしまった。 「ウンコちゃんの体もピカピカだ……そうか、僕もこんなふうになってるのか。やっとわかったよ」
「昨日、あれから考えてみたんだけどね、もしかするとあたしたち、メタモルフォーゼしてるんじゃないかな」
「何それ?」
「ヘンタイするってことだよ」
「誰がヘンタイだよ!」
「いや、だからそうじゃなくて……」
自分たちの体が成長にあわせて変わっていくこと、というのがウンコちゃんの説明だった。
「もしかしておれたち、成長してるのかな?」
「成長といえば成長なんだろうけど、でも海水馴化(じゅんか)といったほうが正しいんじゃないかな」
「またむずかしい言葉使ってる、なんだよそれ」
「だよねえ。どうしてあたし、こんなむずかしい言葉知ってるんだろう。もしかしてこれも成長のしるしなのかもね。ところでさ、うんちくんいま、おれっていったよね」
「おれ? そんなこといってないよ、おれは」
「ほら、いった。あたしちゃんと聞いたもん」
「そんなウンコちゃんこそ、自分のことあたしっていってるじゃん! 昨日まではあたいだったのに、あたしになってるぞ」
「えっ、そんなこといった?」
彼女は、よくわからないと小首をかしげた。そのしぐさが少し大人びてて、ちょっとかわいくみえた。
(え? ちょっと待って。ウンコなのに、かわいいって……?)
あいかわらず、差別意識は根深そうなうんちくんだった。