● 2 うんちくん、ウンコちゃんと出会う
バラバラにこわれてしまいそうなほど、大きな衝撃を全身に受けたけど、大丈夫だった。うんちくんは不死身なのかもしれない。
でも、やはりダメージを受けたらしく、ほとんど水面のゴミのような状態でしばらく流されていると、だれかの姿が見えてきた。
「あっ、ウンコちゃん!」
うんちくんとウンコちゃんは知り合いだった。
「うんちくん、どうしたの? 川のこんなところまで下りてくるなんて、めずらしいじゃない」
うんちくんは川の上のほう、上流で生まれ、その近くにいることが多かった。でもウンコちゃんは少し下のほう、水がちょっと汚れはじめてくるところに生まれた。
でも水が汚れるのはウンコちゃんたちのせいじゃなく、人間のせいだって教えてくれたのはお父さんだった。お父さんは彼が生まれるとすぐに、どこか知らない世界へと旅立っていったとお母さんから聞かされた。
「お母さんと約束したんだ。死ぬまぎわにお母さんが、長い長い旅に出て広い海を見てごらん。そこで大きい大きいうんこになるんだよっていったんだ」
「ふうん、海かあ。あたい、まだ見たことないなあ」
彼は心のどこかで、ウンコちゃんを自分より下だと思っていた。自分は透明できれいな水が流れる渓流のほとりで生まれたけど、ウンコちゃんは、そのちょっと下流の方のきたない水のそばで生まれたから。そう考えていたのだった。
それに「うんち」と「ウンコ」では、うんちのほうが何となく格上で、うんこは格下のような気がしていたからだ。
(だって、ウンコよりもうんちのほうが、ちょっとかわいいような気もするし……)
しかし客観的にみた場合、うんちもウンコもまるで同じ物体なのであり、よそから見ればまったく同類だということに、まだ幼い彼は気づいていなかった。
「よし、決めた。あたいもうんちといっしょに海へいってみる」
ウンコちゃんが突然そんなことをいったので、彼はびっくりした。
「ムリムリ! 僕は男だから勇気も体力もあるけど、ウンコちゃんは女じゃないか」
「あら、ずいぶんと男尊女卑の思想をもってるじゃないの。旅に出るのが男の専売特許だと思ってたら大まちがいなんだから」
ダンソンジョヒ? センバイトッキョ? ウンコちゃんが難しい言葉をよく知っていることに、うんちくんはおどろいた。うんちとウンコの件も、この男尊女卑の件も、どうも彼には根強い差別意識があるらしかった。成長とともに、そんな差別感情も消えてくれればいいのだが−−。
「だって、川をずっとくだっていって海までたどりつくのは、すごくすごく大変な旅なんだぞ。海がどんなに大きくて、危険がいっぱいなところなのか、きみは知らないじゃないか」
「だったらうんくんちは知ってるの、海のこと?」
うんちくんは、ことばにつまった。生まれて初めての旅なんだから、知ってるわけがないのだ。お母さんから少し話を聞いただけ、ただの聞きかじりである。
でも、と彼は考えた。ウンコちゃんは意外ともの知りみたいだから、いっしょに旅をすれば、もし危ない目にあったときには、ウンコちゃんの知識が役にたつかもしれない。うんちくんは、意外と腹黒かった。