世界の裏庭

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【おすすめ傑作選◉読書】『誰か −somebody』

●『誰か −somebody』 宮部みゆき著

普通の人の、普通の日々にひそむ「小さな謎」

 この著者の書く小説がとても好きで、読みたおしていた時期があった。もちろん、いまもファンのままだ。 

 ただ、この小説を読みはじめたとき、それまでの著者の小説とは少し違うトーンだなと感じて、最初の数十ページはなかなか物語に入り込んでいけなかった。
 ところが、さすが序盤を過ぎたあたりからはすっかり引き込まれていた。自転車によるひき逃げ事故で死亡した運転手、誘拐された過去をもつ娘は、父が誰かに殺されたのではないかと考え、うしろ暗い何かを隠しているらしい個人の過去へ迫っていく。その過去は思い過ごしだったのだが、実は……というストーリーだ。
 派手な事件やできごとが連続するわけでもないのだけど、さすが希代のストーリーテラーだけあって、静かだけど読者をグイグイ引っぱっていく。
 そしてラストのあたり、ちょっとだけつらくなる。八方丸くおさまる、という大団円ではないからだ。この辺、おさまりのよい小説ばかり書くわけにはいかない、という作者の意気ごみすら感じる。
 私は読んでいて、終盤が近づくころには久しぶりに、この本をもうすぐ読み終わるのがもったいないなあ、という気分にさせられた。よい小説には、読者に強くそう思わせる力があるものだ。

著者の凄さは、ジャンルをまたいでも図抜けた「平均点の高さ」

 著者の驚嘆すべきところは、ミステリーからはじまって、SF的な着想のものや時代物など、その守備範囲がとても広いところにある。同時に、その全てが非常に高いレベルにあることはファンの方であればご存知だろう。

 例えば『龍は眠る』などは、サイキックものとして非常に読み応えのある小説だが、同じような素材を扱っている他の作と大きく異なるのは、超能力をもつ者の苦悩や苦しみ、切なさなどに焦点を当てている点だと個人的には思っている。

 その点において、たんなるエンターテインメント小説の枠を少しはみ出していると思わされる。特殊な能力を持つ人物を描くことによって、逆にふつうに暮らしているふつうの読者に、人間の喜怒哀楽が切ないまでに伝わってくる小説になっているという気がする。それが多くの幅広い層から支持されている理由ではないだろうか。

 超能力があったらいいなあ、こんな現実にはないことができたらいいなあ、そんな思いを抱きつつ読んでいると、(特殊な能力を持って生きるということは、そんなにいいことばかりじゃないんだよ)と、痛い何かを突きつけられることになる。

 そしてじつはそういう部分も、小説を読む醍醐味のひとつなのだ。『龍は眠る』も、未読の方にはおすすめです。

ドラマでは小泉孝太郎とムロツヨシが共演


 『誰か −somebody』はTBSテレビで「杉村三郎」シリーズとしてドラマ化されていて、私もそれを毎週楽しみに観ていた。ムロツヨシという役者のことを初めて知ったのも、このドラマだった。主演は小泉孝太郎で、現在はその異常なほどの仲の良さが知られている。

 シリアスなドラマなのに、ムロさんはどこか(すきさえあれば笑わせたい……)というオーラを強く放っていたのを記憶している。ムロさんは数年前から、ドラマはもちろん映画やCMなどまさに引っ張りだこの大活躍で、一ファンとしてよろこんでいる。

 プロフィールはほんの少ししか知らないけど、なかなか苦労してきた人のようだから、これからも地味派手に活躍をつづけていってほしいと心から願っている。何かで読んだ「ムロ鍋」とやらも食べてみたいものだ。

 そういえば、少し前に「勇者ヨシヒコと魔王の城」の再放送が発表されたけど、私がいるエリアでは放送されず……楽しみに待っていたのに、本当に残念だ。

 

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