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【おすすめ傑作選◉映画】『戦場のピアニスト』

『戦場のピアニスト』

 監督/ロマン・ポランスキー 出演/エイドリアン・ブロディ

戦場のピアニスト(字幕版)

戦場のピアニスト(字幕版)

  • メディア: Prime Video
 

 

娯楽大作も好きだが、考えさせられる映画も好き、というあなたに

 すごく考えさせられる大作だった。個人的に、一番印象に残ったシーンがある。ポーランド一のピアニスト、ユダヤ人であるシュピルマンが、収容所送りになる列車へと向かう列から、知り合いの警察官(この人もユダヤ人!)に腕を引っ張られ、逃れるシーンだ。

 「二度と戻ることのできない旅」であることを、彼らは別れる前にもちろん知っていたはず。そのときの気持ちはと考えると、想像を絶するものがある。

 悪意に満ちた空気がじわじわと全身を包囲し、真綿で首を絞められるような閉塞感の中、ただ、いま生き延びることだけを考えて生きる。 

生き延びた、その先にある過酷さ……実話ならではの重み

 この映画を観て、生きることの素晴らしさを感じたと誰かが書いていたが、個人的にはまったくそうじゃないと思う。生き延びて、そしてまさに生き延びたことによって生じてしまう、その後の人生の苛酷さ。それを、いったいどう引き受けるのか。焦点はそこに当てられていたと思えるからだ。

 美しくはじまり美しく終わる映画で、そのところが予定調和的ではある。しかしそれは作り物のストーリーではなく、真実の話だからこそ許されるのかもしれないとも思う。

 彼を助けたドイツ兵が、あっという間に逆の立場になってしまうところも、見ている視点がぐっと揺さぶられる感じがして、非常に効果的だと感じた。

 戦時下にあっては、なんの力も意味さえも持つことのできない「ピアニスト」という立場−−。それはなんと弱々しい存在か。ただの傍観者でしかなく、けれどその弱い傍観者だからこそ、人間や物事を冷徹に見る「視点」そのものになりえたのかもしれない。

 

人は歴史から学んできたのだろうか?

 スペインのフランコに始まった独裁国家は、ヒトラーの登場でさらにひどい方向へと加速した。それをわれわれは歴史として学んできた。

 だというのに最近は、国内外で人種差別に端を発する事件・事故、騒動をニュースでみない日がない。それほど頻繁に起きている印象がある。

 人間が時の経過とともにちょっとずつでも進歩・進化していくはず、という考えを全肯定できるだろうか? それはただの幻想じゃないか?

 時間をかけて体の内外をゆっくり進化させるという道を捨て、脳を極端に大きくすることで「道具」「服」「料理」等々、自然界に適応する道を、または自然環境のほうを自分たち合わせるという道を選んだ時点で、ヒトは時間とともに退化していくことを選択してしまったのではないか。

 映画とは関係のない、そんなことまで考えてしまった。

  

戦場のピアニスト

戦場のピアニスト