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【おすすめ傑作選◉映画】 『小さな世界はワンダーランド』 by BBC EARTH


●『小さな世界はワンダーランド』 by BBC EARTH

 スケールの大きなネイチャー・ドキュメンタリーを、立て続けに公開してきた「BBC EARTH」ブランドによる、ごく小さな生き物たちを紹介するシリーズだ。全長10cm前後のネズミや、少し大きなシマリスなど、これまでなら脇役的に扱われてきた小動物を、あくまで主役として見せてくれる。
 「小さな生き物を撮影するほうが機材は大きく多くなる」とつぶやく、撮影スタッフの言葉が印象的だった。

○エピソード1 「ミニミニ大作戦
・ハネジネズミ……ブッシュの下に複雑な構造の通路を作り、そこを猛スピードで走ることでエサを探したり、巣に戻ったりをくり返す。
 ただ、輸入販売元のタイトルがいただけない。シリーズタイトルの『小さな世界はワンダーランド』、「ミニミニ大作戦」……。現在の自然ドキュメンタリーにおいて、世界最高峰というべき内容やスタッフの質の高さ、映像の斬新さを的確に表しているとはとても思えない。

○エピソード2 「秘密の森」
 個人的には、こちらが特に面白かった。北アメリカにある原始の森で生きる、若いシマリスの暮らしぶりを撮影したもの。暮らしぶりといっても、何というか、とても人間くさい面が見えてくるのが面白い。
 半年間にもおよぶ長い冬に備えて、初めて独り立ちしたシマリスが、せっせとどんぐりを集めている。このでっかいどんぐりはオークの木のもので、私がプランターで育てているミズナラと同じだというのが、ちょっとうれしかった。そんなことも手伝って(笑)、この若いシマリスに思い入れたっぷりで見ていたら、なんと大人の同じシマリスが、若いオスが地中深く10mの巣に一生懸命蓄えてきたどんぐりを、こそ泥されるのだ。
 いやー、マジで? というのが、これを見たときの率直な感想だった。おとなが子どもの集めたえさを、こそこそと盗みまくる。しかも、バレない程度にとかじゃないくて、ほとんど全部……こういう自然の過酷さは、この手の自然ドキュメンタリーをいっぱい見てきた身としては、まあ、わからないではないのだが。それにしてもおとなはセコい。人間界もそうなってないか? と思わず自問したほどだ。
 ところがその後、自然界って本当に人間にいろんな真実を教えてくれるなあ、と感心させられることになる。
 冬がすぐそこまでやってきているこの時期、冬を越せるだけの量のどんぐりを集める時間はもう残されていない。このままでは巣の中で飢え死にするのは確実だと、ナレーションが緊迫感とともに教えてくれる。
 追い詰められた若いオスは、盗まれたどんぐりを奪い返すことを決心する。自分よりも身体の大きなこそ泥の、おとなシマリスと闘うことになるのだ。人間の書いたシナリオがあって、その通りに撮っているわけじゃないはずなのに、子どもが大きく成長するこんな場面を見せられると、本当に自然界も人間界も同じなんだと、あらためて知らされるのだ。
 動物も人間も、大きく成長するときというのは少しずつではなく、きっと一気になのだろう。

○特典映像「メイキング・オブ・小さな世界はワンダーランド」
 撮影隊による、最新機器と技術を駆使した撮影の裏側を解説する、この特典映像でのエピソードがとりわけ興味深い。これは他のBBC EARTHのシリーズでも時々見られるものだが(必ず入っているわけではない)、個人的には大好きな映像でとても楽しみにしている。
 登場するカメラマンやディレクターが、過酷な大自然のなかの現場にもかかわらず、土まみれ泥まみれになりながら笑顔を欠かさず、快活に愉しげに話しているのが好ましい。自然や動植物全般が、本当に好きで好きでたまらない感が画面からにじみ出ているのだ。