●『Dear フランキー』
監督/ショーナ・オーバック
出演/ジェラルド・バトラー、エミリー・モーティマー、ジャック・マケルホーン
単純に、人にすすめたくなる映画
これ、すごく、いい映画だった。あまりに単純な感想で申し訳ないくらいだけど、でも本当に心がゆさぶられるような映画や小説、音楽なんかに出会ったときには、こんな書き方でもいいような気がする。
もし観る機会があれば、いや、機会がなかったとしてもなんとか入手して、とにかく観てみてほしいと心から思う。それくらい、本当におすすめしたくなる映画だ。
感激・感心・感動の3セットが味わえる
全編を流れる空気感に感激し、よくぞこういう映画を作っってくれたと監督・スタッフに感心し、ストーリーそのものに感動した。
ストーリーは静かにはじまる。シングルマザーの母親と、思春期の難しい年代の息子との関係が軸になっている。ただ、設定がちょっとだけひねってある。世界中を旅する架空の父親からの手紙をよそおって、母親は長いこと息子に手紙を書きつづけているのだ。
映画のタイトルにもなっている『Dear フランキー』は、母親が書きつづけているその偽りの手紙の書き出しでもある。
この手紙が横糸となって、少年と母親の関係が描かれていく。そして手紙が、張りつめた一本のピアノ線のように、物語のなかに緊張感を生み出してもいる。北の国ならではの、ゆったりとした時の流れを美しく描きながら、しかし画面のどこかにいつもチリチリとやわらかく神経を刺激してくるような、得体の知れない空気がただよっている。
そして物語の進行とともに、寄り添っては消えていく、もろもろの伏線が絶妙に絡み合ってくることになる。
いくつもの布石、そして予想外のラストへ
やがて主人公の少年の難聴は、父の暴力によるものだった事実が明かされる。そしてこのことが、静かに抑えた少年の感情表現の根っことなっている。母親が書くやるせない手紙、そしておばあちゃんとの確執−−。
少年とジェラルド・バトラーが、浜辺を走るシーンがとても印象的だ。観る者は、これまでの少年が置かれた境遇や、現在置かれている環境などを知らされているだけに、じーんとくるような心温まる映像として胸に迫ってくる。
ラスト近く、予想外のある出来事が起こる。それを少年(フランキー)が知ることで、嘘の父親役であるジェラルド・バトラーと彼は、もう二度と会うことはないと、切なくやるせない気持ちにさせられる。ところが、じつは−−。
(そう、少年と彼は、きっといつかまた会える)……そんなふうに感じさせられる、深々とした余韻の残る映画だ。名作の佇まいが、たしかな手応えとして残る。
映画って本当にいいよなあと、久々に思わされた映画だ。個人的に、もともと父子ものに弱いという部分は差し引いても、これまで観た映画のベスト5にはまちがいなく入る傑作だと思う(あくまで個人の感想です)。