世界の裏庭

読書、映画、創作、自然など

【美味◉珍味手帖】フジツボ

●高級珍味 フジツボも夏が旬(亀の手ではない) 

 まさに夏が旬! 極上の酒の肴

 こちらも夏が旬の、最高においしい珍味だ。フジツボといっても、港の岸壁などにへばりついているものとは異なり、正式には「ミネフジツボ(峰富士壺)」という種類。

 いちおう珍味という紹介のしかたをしているが、かなり「美味寄りの珍味」と思っていただきたい。これまで各地のいろいろな肴を食べてきたが、個人的な酒の肴としてはベスト5には入る。それぐらい味は極上の食材だと思う。

 本場は青森県の陸奥湾で、もともとは天然物を地元の漁師さんたちが、さけのつまみに食べていたそう。何かのきっかけでテレビで紹介されると人気が出て、それが東京・築地にも出荷されるようになると、いちやく高級珍味として知られるようになった。 

青森でのフジツボ取材こぼれ話

 じつは、とある仕事でフジツボを取材しに青森県へ足を運んだことがある。かなり前のことになるが、この食材を選んだのは自分ではないので、地味にブームになりかけていた頃なんだろうと思う。

 市場の方も、なぜこんな高値がつくのか不思議だと、しきりに首をひねっていたのが印象的だった。市場での落札価格は高騰していて、地元の人は手が出なくなりつつあるとも。

 またその方は、苦笑しながら「重さが1キロといったって、見ればわかるように身の重さなんか大したことはない。この価格のほとんどが殻の分ですから」と話していた。

 まあ、それをいっては身もふたもないのだが、そんなことは百も承知のうえで食べたくなる、それほど奥深い味わいと旨みをもつ食材だと断言してしまおう。

 このときは市場の取材だけに朝が早いから(確か朝の3時に市場へいった)、前日はホテル泊だった。で、せっかくだからと出かけて、フジツボを出している居酒屋を探して入った。

 〈塩茹で〉と〈酒蒸し〉が主流

 おいしい食べ方を聞くと、塩茹でか酒蒸しが多いというので両方作って出してもらうことになった。その店では大きなバケツに酸素のブクブクを入れて、活かしてあったフジツボを調理してくれた。

 正直、感嘆の声がもれるほど旨かった! とても貝の味とは思えない。

 と思って店主に話を聞くと、それもそのはずでフジツボは貝ではなく甲殻類、つまりエビ・カニ・シャコなどの仲間なのだという。どうりで旨いはずだ。もう一つ、もう一つと、皿に伸びる手が止まらなくなったのを憶えている。

 ゴツゴツした殻から、ツメのついた身をひっぱり出して食べるのだが、殻の中には汁が残る。これがめっぽう旨い。

 口にふくむと、たしかにエビ・カニに似たあのやわらかな味わいと、潮の香りを凝縮した感じで、たいへんな美味なのである。なんというかもう、酒が進んでとまらなくなる。

 当時はすべて天然物だったと記憶しているが、近年では、陸奥湾内でホタテの貝殻を使って養殖もされているそうだ。

 

 美味なるこの珍味、地酒でもビールでもいいので、ぜひ一度味わってほしい。どんなアルコールにでも合う繊細な味をもっているので、お好きな飲み物と一緒にどうぞ。