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【美味◉珍味手帳】手作りビーフジャーキー

 ●とても面倒くさいビーフジャーキー作り

ビーフジャーキーの燻製

 燻製づくりにはまっていた時期があった。

 簡単なものではチーズやゆで卵、かまぼこ、鳥のささみなど思いつくものはいろいろやってみた。チップをいぶして煙をかけるだけだから、時間と気持ちに余裕さえあれば簡単なものである。

 アルコールはジャンルを問わずなんでも好きだが、どんな種類の酒でも燻製は抜群の肴になる。なかでも友人から大好評だったのがビーフジャーキーだ。でもこの燻製は、なにしろ手間ひまがかかる。

 最後の燻煙をかける工程なんて、全体からすればほんの1割程度に過ぎないと思えてくる。

牛肉をブロックで入手。ソミュール液を作る

 当時、本屋であれこれみつくろって手に入れた燻製の教科書どおりに、まず牛の赤身肉をブロックで買ってきた(できれば1kg単位)。肉屋さんでもいいが、スーパーの精肉担当の人に声をかけると、案外気軽に切って売ってくれる。

 まずソミュール液という漬け込み液を作る。セロリやニンジンなどいくつかの野菜と、粒黒胡椒などの香辛料、好みの香草を入れ、少量のしょうゆなどで味付けしてからコトコト煮込む。

 液が熱いと肉に熱がとおってしまうため、このソミュール液をひと晩かけて冷蔵庫で冷やす。もちろん肉も。

 次の日、肉を金串でグサグサ突き刺して、液を染み込みやすくする。それから厚めのビニール袋を二重にして(万一漏れたら大惨事!)ソミュール液を入れ、そこに肉のブロックをどぼんと沈める。

 中の空気を慎重に外へ追い出して、液が漏れないように口をしっかりとしばる。この状態で、またまた冷蔵庫に入れて漬け込むわけである。日数はうろ覚えだが、たしか3、4日ぐらいだったように記憶している。

陰干しして水気をぬく

 仕込みは、まだまだ終わらない。冷蔵庫から取り出した牛肉ブロックを、まな板の上にのせて、包丁で薄くそぎ切っていく。このとき、自分が食べやすいと思う厚みと長さを考えながら切るといい。

 細切りにしたたくさんの肉を、太陽に当たらないように、しかも水気が充分ぬけるように陰干ししなければならない。暑い時期だとカビが生えてくるし、よからぬ虫たちもよってくる。だからビーフジャーキー作りは冬がいいとされている。

 ただ、夏場でも防虫ネットに2、3段の網を渡した乾燥用の商品があったはず。冷蔵庫も乾燥しているので、たんに乾燥させるだけならそれでもいける。この乾燥の工程も2〜3日ぐらいかけて、すいぶんをしぼり切る。

ようやく最後の工程!燻煙をかける

 ね、手間ひまと時間がかかるでしょ? ここまできて、やっと燻製の最終工程。

 最初のころはよくわからなかったけど、燻製も何度か経験しているうちに、選ぶチップの種類で味や香りが微妙にちがうことがわかってくる。

 チップもいくつか試してみた。当時売られているものしか買えなかったが。

 スモークチップとして有名なのはヒッコリーだが、これはちょっと渋みがある。サクラはやや甘めに仕上がる。個人的に「苦み」は好きだが、「渋み」は苦手なので、ちょうどよい苦味が舌に残るコナラのチップが好みだった。

 そう、どんぐりの木のあのコナラ。つくづくどんぐりの木が好きなのだ。凝り性の人はブレンドするのだろうが、自分はそこまではしなかった。スモーカーは、一斗缶に手を加えたものを利用していた。

最後に

 自分は料理らしい料理はほとんどできない人間。でも一度おいしさにハマると、それを作ることにもハマるタチでもある。佐藤正午のエッセイに書いてあった「キノコとニンニクのスパゲティ」とか。つまり、1種類に没頭することしかできないタイプだ。

 一時期はバカのように燻製に夢中になっていた。上記のように手間のかかるものに手を染めてしまったことで、ずいぶんと数は作ったものの、やがてあまりに面倒なこともあって次第にやらなくなってしまった。

 だから久しぶりに作ってみようかな……という締め方がこの手の文の常套句だが、面倒すぎるのでもうやりたくない笑 現在は家庭状況もあって、そこまでの気持ちの余裕もまるでない。

 燻製の教科書がどこにいったかわからず、詳しい材料も不明なので、上記はあくまで記憶で書いている。なのでこの稿は作り方のレシピではなくて、あくまで読み物として楽しんでもらえるとありがたい。

 当時と違い、ネットで検索すれば燻製作りなんて数多くの記事が出てくるだろう。でも、あのおいしいさは市販のビーフジャーキーをしのいでいたと、いまでも思ってる。自分の好みに合わせて自分で作ったものが、やっぱりいちばん旨い。