世界の裏庭

読書、映画、創作、自然など

【おすすめ傑作選◉映画】自然ドキュメンタリー作品『グレート・ネイチャー』 by BBC アース

● 『グレート・ネイチャー』 by BBC EARTH

 驚異の自然映像「BBC EARTH 」シリーズ

 ここ何年か、個人的にはまっているのが「BBC EARTH 」という映像レーベルだ。あのイギリスの公共放送局であるBBCが、地球のありとあらゆる場所におもむき、自然のリアルな姿を驚くような斬新なスタイルで、ドキュメンタリー映像として撮影し発表しているシリーズだ。
 生き物や自然全般の事柄、ときには人間の文化的側面にもカメラを向けている。「BBC EARTH 」シリーズのなかでも、この『グレート・ネイチャー』は初期のほうに製作されたコンテンツのようだ。
 それだけに、製作陣やスタッフの強烈な熱意が、誰も観たことのない自然のリアルな姿を映像に記録してやる! というような意気込みが、画面を通して観る側にまで伝わってくる。
 例えば最初の「EPISODE 1 氷の大融解」は、夏の北極圏を舞台にした迫力あるドキュメンタリーである。氷河が海に向かってなだれ落ちる光景や、ホッキョクグマの愛らしいようす、口吻に長い牙をもつ幻の一角獣ともいわれるイッカク(ユニコーン)やシロイルカなど、映像としてなかなか目にする機会の少ないものばかりだ。
 エピソードは1 〜6まであって、「EPISODE 2 サケの大遡上」「EPISODE 3 ヌーの大移動」「EPISODE 4 世界最大の魚群」「EPISODE 5 恵の大洪水」「EPISODE 6 大いなる海の宴」となっている。
 どれもこれも見応え充分すぎる内容で、すべて面白いのだが、個人的に特に印象に残っているのが「EPISODE 4 世界最大の魚群」。

 

ナレーターのデヴィッド・アッテンボローの声と解説が最高

 私はこのシリーズでナレーションを担当している、デヴィッド・アッテンボローの声に惚れこんでしまっている。映像とともに流れてくる独特のだみ声(失礼! 最上級のほめ言葉です)と、聴いているだけで心地よい抑揚のあるリズミカルなナレーションと、その言葉遣いの妙。
 そしてときどき登場する(別シリーズ)太っちょで好々爺然としたその人物像に、心酔しきっているといってもいい。じつはBBC EARTHの他のシリーズでは、別の人物がナレーションを担当していることも多い。
 一例を挙げると、『サウス・パシフィック』(全6エピソード)ではベネディクト・カンバーバッチが担当している。舞台や映画俳優で活躍しているイギリス人俳優で、『イミテーションゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』という映画で高い評価を受けている。暗号に興味があったので私も同作を観たが、難しい役どころなのに巧い役者さんだなと思った記憶がある。
 しかし、しかしである。デヴィッド・アッテンボローの、あの圧倒的な存在感にはかなわないのだ(あくまで個人の感想です)。この人は、大学で動物学の学位を取得した後、BBCに入って長く自然関係を中心としたドキュメンタリー制作に携わってきた。動植物学者であり、作家であり、ナレーターであるという人物で、名前をご存知の人もいるかもしれない。まさに筋金入りのナチュラリストなのである。
 私は夜に酒を飲みながらこのシリーズを楽しむことが多いのだけど、映像とナレーションのあまりの心地よさに、途中で寝落ちしてしまうこともしばしばだ。まあ、ゆうに10回以上は視聴しているので、見覚えのあるシーンがつづくということもあるが、それでも少し時間がたつと、またこの映像に世界にひたりたくなる。それほどまでに魔力をもった映像シリーズといえる。


何回観ても新鮮で、息をのむほど美しい映像

 この『グレート・ネイチャー』(原題は『NATURE'S GREAT EVENTS』)には撮影期間で2年、製作期間はなんと3年もかけているというから、すみずみまで力感あふれる映像に仕上がっていることにも納得だ。総製作費も15億円だそうである。
 ちょっと大げさな表現をすれば、人類の未来への投資ともいえるかもしれない。月並みな言い方だが、個人的には自然映像遺産と呼びたくなる、それだけの価値があるシリーズだ。
 いまのところ自然系のシリーズしか視聴していないが、そのうちインドや中国を舞台にした、文化的側面に焦点を当てたシリーズも観てみたいと思っている。

 何度すすめてもすすめたりないほど面白い、BBC EARTHのドキュメンタリー『グレート・ネイチャー』。美しくドラマティックな映像、そしてデヴィッド・アッテンボローの魅惑的なナレーションに、たっぷりとひたってほしいと心から思う。