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【おすすめ傑作選◉読書】『カディスの赤い星』逢坂剛

『カディスの赤い星』逢坂剛 講談社文庫

新装版 カディスの赤い星(上) (講談社文庫)

新装版 カディスの赤い星(上) (講談社文庫)

  • 作者:逢坂 剛
  • 発売日: 2007/02/10
  • メディア: 文庫
 

 

直木賞受賞の名作!

 私が好きな著者の、直木賞受賞作。このサイトでは、個人的に過去の傑作・名作と感じている小説やエッセイなどを紹介している。どちらかといえば、最近や現在人気のものは少ない。

 長く本を読んでいると、どうしても好きなジャンル、好きな著者だけにフォーカスしてしまいがちになる。自分もその傾向はあるが……なるべく偏りは少ない方向にしていきたいものである。

セリフの巧みさとキャラクターの魅力

 逢坂剛といえば、最近では『MOZU(もず)』(TBSテレビ・WOWOW共同制作ドラマ)の原作者として知られる。キャラクターやヒロインの魅力的な造形、そして気の利いたセリフや言い回しがすばらしいと、個人的には前から思っている。また、スペインという国の文化的・歴史的背景や、フラメンコギターの深い知識にふれることができるのも特長。

 私はスペインについて、サッカーを通してぐらいしか知らないし、正直、ヨーロッパの歴史にもあまり興味がなかった。だけどこの著者の小説を読むと、楽しみながら知識が増えていくのがわかる。まさに「おもしろくて、ためになる」小説である。

 冒頭から慌ただしくストーリーは動いてはいかないが、そのゆったりとした展開が心地よい。会話のはしばしにゆーモラが散りばめられている。ニュアンスは少し違うが、佐藤正午を連想させるものがある。個人的にはツボだ。

 こんなふうに中盤ほどまではスローペースだが、それでもページをめくらせる力が確実にある。宮部みゆき『火車』、逢坂剛『カディスの赤い星』と傑作を読んでみると、うっすらとわかってくることがある。登場人物、伏線、謎、等々物語中に含まれる、たくさんの要素が絡み合い、もつれ合いながら収束していくところにミステリー小説の醍醐味がある、ということ。

ラストのカタルシス……

 実はあとから冷静に考えると、わざとらしかったり、少々偶然が重なり過ぎたりと、不自然な部分があることに気づくこともある。しかし、読んでいる最中にはそれを感じさせない、というところが作者の技術であり手腕なのだ。

 この小説では最後にカタルシスが待っている。カタルシスというのは、創作物において読者が悲劇を疑似体験することで、恐れや悲しみという感情を浄化する効果のこと。簡単にいえば、「本を読んで泣いたらスッキリした!」というような経験のことである。

 傑作・名作は時をへても古びることがない、ということを教えてくれる小説だ。